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「思い残し症候群」の岩月謙司氏、逮捕!!
  2004年12月30日


 「思い残し症候群」や「育てなおし」など、独自の治療方法で知られている香川大学教育学部の岩月謙司教授が、2004年12月7日準強制わいせつの容疑で逮捕されました。

 神経症で悩んでいる二十代の女性に対して、治療と称して一緒に入浴したり、一緒に布団の中に入って胸や下腹部を触った疑いがあるとのことです。

 岩月氏は「一緒に浴室や布団に入ったことはあるが、わいせつな行為はしていない」と言っているそうですが、検察サイドでは「治療として下着姿で抱き合った行為に正当性はない」とのことです。

 岩月氏は、複数の女性に対しても同じようなことをしていたと供述しているようです。高松地検は12月24日、高松地裁に「準強制わいせつ罪」で起訴しました。

 報道によりますと、岩月氏は被害者に対して「今が自己分析をするチャンス」であるとか、「父からのセクハラと母の嫉妬(しっと)という呪いがかかっている」とか言って、一緒に入浴したり、布団の中に入ったりして体に触っていたようです。

 「呪いがかかっている」などという言い方からは、なにか新興宗教のようなものを連想してしまいます。新興宗教の中には、非常に怪しい団体があって、体を清めるとか言って性行為に及んで、後で問題になったりすることがあります。いくら宗教上の儀式なんだと主張しても、女性から訴えられれば、それで終わりです。

 岩月氏の場合も、いくら治療行為であると主張しても、第三者から見て、明らかに性行為と受け取られるような事をしてしまうと、後でトラブルになったときに、きわめて不利な状況に追い込まれてしまいます。

 たしかに世の中には、性的な問題を抱えている人のために「セックス・セラピー」と呼ばれているような治療法がありますが、これはあくまでも夫婦や、恋人同士などの、男女のカップルに対して行われるものでして、決してセラピストが性行為に参加したりすることはありません。もしセラピストが性行為に参加してしまったら、セラピストの中立性の問題などをはじめとして、あまりにもたくさんの問題が発生することになるからです。

 このような性の問題を治療場面で取り上げるときに、よく問題になるのが「逆転移」の問題です。性の問題というのは、心の深い部分にある欲望を強く揺さぶりますので、セラピスト自身が抱えている心の問題が、往々にして治療場面で表面化してしまうのです。ですから、性の問題を扱うときには、よくよく自分の中立性という事に注意を払わなければなりません。

 岩月氏の「育てなおし」に関しては、読者の方からも「ぜひHPで取り上げてもらいたい」というメールをいただいたりしていたのですが、私は岩月氏に対して、ずっとある種の違和感を感じていました。

 テレビの報道番組で、「育てなおし」のようすを放送したのも見たのですが、ますます違和感を覚えてしまいました。その番組で放送されたのは、治療を望んだ女性を、赤ちゃんがえりさせて、赤ん坊の状態から育てなおすというような内容でした。大人の女性が赤ちゃんに戻ってオムツをしたりするのです。そして、岩月氏と奥さんが自宅で親代わりとなって、愛情を注いで育てていくのです。こういうやり方ですから、ものすごい時間と労力をかけて育てていくことになります。岩月氏は「育てなおし」のために、自宅のスペースを提供し、ボランティアとして自分の時間を大量に注ぎ込んでいますから、わが身の犠牲をいとわない岩月氏の情熱には物凄いものがあります。

 しかし、どうも治療対象が女性だけのようですし、岩月氏が書いた大量の本のタイトルを見ましても、どうも岩月氏は「女性の育て方」ということに関して、並々ならぬ情熱を持っておられるようなのです。この点で、いろいろと違和感を覚えるのですが、岩月氏の治療によって立ち直った女性のインタビューを見ますと、岩月氏が多大な情熱を傾けた治療は、一応の成果を挙げているようなのですが、……。

 こういった、女性の育て方に対する過剰なまでの熱い思いを知っていると、今回の事件では、「ああ、やっぱり」となってしまうのです。そして、岩月氏を信じて治療を受けた人たちが、人には言えないような問題を、さらに抱え込んでしまったのではないかと心配になってしまうのです。

 岩月氏も、起訴事実はほぼ認めているようですので、裁判では、どんなふうに触ったのかということや、それがわいせつ行為なのか、治療行為なのかということが争われると思います。これは、訴える側にとっても辛い思いをすることになるでしょうが、裁判という仕組みでは、事実関係を明らかにしなければなりませんので、避けて通るわけには行きません。

 専門家の間では「育てなおし」という治療法そのものに対しても、「これは治療と呼べるようなものではない」として批判する人もたくさんいるようですので、今回の事件では、「ホラみろ」ということになって、さらに批判が増えてゆくことになると思います。


【 参考資料 】
毎日新聞 2004年12月8日
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/12/08/20041208ddn041040002000c.html
朝日新聞 2004年12月25日
http://mytown.asahi.com/kagawa/news02.asp?kiji=7061
毎日新聞 2004年12月25日
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/12/25/20041225ddlk37040629000c.html
四国新聞社
http://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20041208000135


岩月謙司の本のリスト (amazon.com)

書籍
セックスレスの精神医学 阿部輝夫

刑法
第百七十六条(強制わいせつ)
 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第百七十七条(強姦)
 暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、二年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

第百七十八条(◆準強制わいせつ◆及び準強姦)
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をし、又は姦淫した者は、前二条の例による。


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