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頭の壊れた医師  Ver 1.0 1999/06/29


 もうだいぶ昔の話になりますが、某大学病院の精神科での出来事です。その病院では精神科の診察室は他からはなれたところにあるため、廊下に引かれた色の付いた線をたどって、迷路のような廊下を歩いて行かなければなりませんでした。しかし、その分、大学病院特有の賑わいから離れて、静かで落ち着いた場所にありました。

 初診のとき、私が精神科の診察室の前に行ったとき、中から男のかん高い大きな声が聞こえてきました。診察のための手続きを終えて廊下の椅子に腰掛けていると、聞きたくなくてもその声が聞こえてきます。それは男の医師の声でした。ヒステリックな声で患者に何か説明しているのですが、叫ぶようなと言ってもいいくらいの大きな声で話しているので、内容がすべて廊下に筒抜けなのです。「つまり、インポテンツというのは……」「いいですか、セックスをしなければならないという強迫観念があって……」というようなことが聞こえてきます。「焦ってはいけないのです。強迫観念に囚われないようにしなければなりません」。

 廊下の椅子に腰掛けている人達も、異様な金切り声を聞かされながら、知らぬふりをして待っています。しばらくして、診察が終わったようで金切り声が途絶えました。そして、診察室から出てきたのは、一組の若い夫婦でした。二人とも恥ずかしさのあまり、うつむいたまま、逃げるようにして去って行きました。その後ろ姿を見ていると、あまりにも可愛そうでした。プライバシーもなにもありません。治療というよりは、ほとんど虐待と言ってもいいようなものです。私の担当医は、その人ではなくて「まともな人」だったので助かりました。

 私は医局の内部事情までは知らないので、なぜこんな頭の壊れた医師が治療を行なえるようになっているのか分かりません。常識的に考えてみて、その医師は明らかにまともではありません。それなのに、こんな医師が治療と称して、患者の心をズタズタに傷つけているのです。こんなことが許されるのか、と言ってもどうしようもないのです。現実にこういう医師がいるのです。これが日本の精神科の現状を表わしている……と言ってしまうと、これもまた誤解になってしまいます。たしかに頭の壊れた医師もいますが、比較的まともな医師もいますし、なかには優れた医師も……「いるはずだ」と、思います。

 では、なぜこんな頭の壊れた医師がいるのでしょうか。そもそも精神科の医師になろうという人達とは、自分自身が心の問題を抱えていることが多いのではないかと思います。自分の悩みから精神医学に興味を持ってこの道に入ったのでしょう。そして、試験の成績さえ良ければ医師になれるのです。ですから、その結果として、こんな欠陥商品のような医師が生まれることもあるのです。しかし、患者の方はこんな医師にかかったらたまったものではありません。傷口に塩を塗るどころか、硫酸を塗られるようなものです。



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