周辺の人格障害 1 人格障害とはなにか Ver 1.0 1999/09/14 Ver 1.1 1999/09/24
境界例の正式名称は「境界性人格障害」となっています。単に境界例という呼び方よりもよりも、人格障害という言葉が挿入されると、もう、なんと言うか、人間的に破綻してしまったような、アブナイ人というイメージを持ってしまいます。まあ、実際そういう面は確かにあるのですが、やはり自分でこういう言葉を使うには少し抵抗があります。
では、このちょっときついニュアンスを持っている人格障害という言葉とは、いったい何を意味するのかと言うと、いくつかある人格障害に共通する診断基準として、一応下記のような診断基準があります。
要するに、いろいろと感情や行動が逸脱しているわけです。そして、逸脱してはいるものの、精神病と言える状態まではいっていないのです。ですから逸脱した行動を取っても、意識はちゃんとしていて、心神喪失状態ではありません。事件を起こしても、計画性があり、従って責任能力もあるとされるわけです。そして、逸脱しているがゆえに集団の中ではトラブルメーカーとなりやすいわけです。簡単に言えば困ったちゃん、と言うことになります。しかし、ここまではっきりと言われると、皆さんの中には不愉快になる人もいるでしょうし、自分が人格障害者であることを、拒絶したくもなるでしょう。ここが問題なのです。 こういった診断基準を作成するには、二つの考え方があります。ひとつは原因によって分類しようという考え方と、もうひとつは症状によって分類しようとという考え方です。しかし、原因によって分類しようとすると、心の問題は人によって考え方の違いが大きいので、統一した基準を作るのがほとんど不可能になってしまいます。たとえば精神分析的な視点から原因を主張する人と、脳の生理学的な視点から原因を主張する人とでは、どこまでいっても平行線をたどることになります。そこで、いろいろな考え方の人がいるにしても、そういう考え方の違いを乗り越えて、みんなが合意できる基準とは何かということで、症状を記述して分類するというやり方が採用されました。 ですから各種の人格障害も、原因によって分類されたのではなくて、症状によって分類されています。そこで、もし、境界例を原因によって分類しようとすると、境界例の範囲が非常な広がりを持ってきます。たとえば分離不安を、非常に重要な原因としてとらえますと、表面的には何の症状もないように見えるような人まで含まれてきます。私流に言うなら「隠れ境界例」と言った人達が、境界例のすそ野に広がっているわけです。こういった軽症に見える人は、とても境界例の診断基準には当てはまりませんが、治療を進めてゆくと、一気に境界例の症状が開花することもあるのです。しかし、診断基準で、隠れ境界例まで含めたら、診断基準自体が非常に混乱したものになってしまい、異論が噴出して話がまとまらなくなってしまいます。ですから、そうならないように、症状の記述による分類で手を打とうじゃないか、ということになります。そして、症状の記述ということになりますと、他の診断基準との違いを明らかにしなければなりませんので、どうしてもある程度重症の記述になってしまいます。しかし、私としては原因論的な視点から、広く解釈してもいいのではないかと思っています。 それにしても、この人格障害という言葉ですが、もう少し気の利いたネーミングはないもんだろうかと思います。人格傾向とか、人格的拡大、逸脱傾向、脱線傾向――、どうもイマイチですね。あるいは、人格障害ではなくて、意味はまったく同じなのですが、パーソナリティ障害というふうに書けば、少しは心理的な抵抗が和らぎますね。しかし、反対に、人格障害という言葉を使うことで、自分自身の精神的な現実を思い知ることが出来る、という効果もあると思います。 さて、この人格障害ですが、三つのグループに分かれていて、全部で十種類の人格障害に分類されています。
A群 奇異もしくは風変わりな人格障害 心の問題から発生する症状というのは、本来、連続的なものですので、これを分類しようとすると、どうしても少し無理が入り込んできます。たとえば、各種の人格障害の中でも境界例は花形的存在というか、今一番注目を集めている存在なのですが、しかし、境界例の人の症状が、境界例の診断基準だけに収まるのかというと、中には近隣の人格障害と症状がだぶるケースもあると思います。ですから、境界例+依存性人格障害だったり、境界例+演技性人格障害だったりするかもしれません。あるいは、それぞれの診断基準を満たすほどではないにしても、該当項目が多くあるという人もいるでしょう。
こういった、近隣の人格障害を併せ持っている場合はどうしたらいいのかというと、原因論的に考えるならば、やはり分離不安というのが共通して存在しますので、境界例の治療技法が有効となります。つまり境界例をメインに考えた方がいいのではないかと思います。実際の診断においても、人格障害の中では境界例が最も一般的な存在となっています。ですから、厳格に診断基準を適応しようという人からは批判されるかも知れませんが、境界例の診断基準を完全に満たしていなくても、原因論的に見て境界例としての要素が認められるなら、境界例として扱ってもいいのではないかと思います。特に、今現在軽症で、まだ症状が開花していないようなケースなどは、診断基準を満たしていなくても、境界例としての要素が認められるなら、治療という視点から境界例として扱っていった方がいいと思います。 【 DSM-IV について】 DSM とはアメリカ精神医学会が作成したもので、精神障害の診断と統計マニュアル: Diagnotic and Statistical Manual of Mental Disorder の略です。世界保健機構(WHO)が作成した ICD というのもありますが、こちらの方は国家的な疫学調査などで使われることが多いようです。この二つの診断基準は整合性を持たせるために、協議の場を設けているようです。 DSM は下記のように改正を繰り返して現在に至っています。
この多軸診断は、どのようにして行なわれるのかと言いますと、たとえば境界例で言いますと、第一軸としては、抑うつ性障害、不安障害、などがあり、第二軸として境界例がある、ということになります。そして、もし、厳密に境界例の診断を下すとなると、類似の人格障害、たとえば依存性人格障害、演技性人格障害、分裂病質人格障害などと区別しなければなりません。 【参考資料】 「精神医学ハンドブック」 小此木啓吾他 創元社 「精神病理と精神療法」 L・スペリー他 北大路書房 |ホーム|境界例の周辺症状| 次へ |
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