ホーム回復のための方法論


過去を振り返る 1

記憶の引き出しを開ける 
 Ver 1.0 1999/07/11


 赤ん坊のころから、現在に至るまでの記憶を呼び起こして、再点検してみましょう。現在抱えている問題を解決するための、鍵となるものが見つかるかもしれません。

 記憶をたどるときは、できるだけ細部を詳細に思い出すようにしましょう。たとえば、親に思いっきり殴られたことがあったら、その時の親の髪型、目つき、自分との位置関係、手の動き、殴られたときの音、痛み、倒れたときに見えた畳の色、畳に落ちていたほこり、周囲の家具の形、聞こえていた物音……などをできるだけ細かく思い出してみましょう。思い出せるものから思い出して行って、徐々に周辺の記憶もたぐり寄せましょう。何がきっかけで殴られたのか、殴られたあとどうなったのか。そして、その時の自分の感情はどうだったのか。自分を殴った親をどう思ったのか。こういった感情を思い出すときには、道徳的になるのはやめましょう。親を憎んではいけないなどとは思わずに、ありのままの生の感情を思い出しましょう。殺意を抱いたのなら、そういった感情もありのままに思い出しましょう。

 こういった過去の記憶を洗い出すには、ニューヨークにあるアクターズ・スタジオという、名門の俳優養成所で行なわれている「感情の記憶」というやり方が参考になります。自分の過去のある時点を、できるだけ正確に再現するやり方です。こうやって再現できた感情は、俳優として演技を求められたときに、すぐに使えるようになります。

 たとえば今、四畳半の狭いアパートにいて、何年も前の家出したときの駅のホームの情景を思い出すとしましょう。目をつむって、その時の自分の服装を思い出します。どんな靴を履いていたのか、どんな色のズボンをはいていたのか、ホームの石畳の色はどんなだったか、気温は、風は、周囲の人達は、その時自分は何を考えていたのか、……。情景がありありと思い出されればその時の感情も甦ってきます。狭い四畳半の部屋の中に立っているのに、自分の周囲には、駅の広々としたホームがリアル再現されて、広がっています。駅のアナウンスの音が響いて聞こえます。向こうから列車がゆっくりと近付いて来るのが見えます。

 こうやって再現された感情は、俳優として、似たような場面を演ずるときに使えます。たとえばトラックに乗って街を出て行くシーンでも、あの時の駅のホームを目の前にリアルに再現することで、すぐに感情準備をすることができます。しかし、我々は俳優ではないので、もっぱら過去の分析のために使いましょう。

 こうやって過去の出来事を一つずつ検証してゆくと、今までたいした出来事ではないと思っていたことが、実は自分にとって非常に重要な出来事だったんだと気付くことがあるかもしれません。あるいは、忘れていたはずのショッキングな出来事を思い出して、パニックになるかもしれません。あるいは、過去を回想することに困難を覚えるかもしれません。どうなるかは人それぞれです。虐待などがあって、思い出すのがひどく辛いときは、あまり無理をせず、思い出せる範囲内で思い出してみましょう。回想を、何回も繰り返していれば、苦痛も少しずつ和らいで、思い出せる範囲も広がってくるでしょう。

 人によっては、記憶の欠落を見つけることもあるでしょう。覚えていて当然のはずなのに、いくら思い出そうとしても、まったく思い出せなかったりします。おそらく、そこに鍵となる何かが潜んでいるのでしょう。思い出したくない、あまりにもおぞましい出来事が眠っているのかもしれません。繰り返し挑戦することで、もしかしたら、少しずつ思い出せるようになるかもしれません。

 過去のあらゆる場面で、その時の自分の感じた感情、たとえば悲しみ、憎しみ、絶望、不安、恐怖などを回想し、なぜそう感じたのか考えてみましょう。自分はその時何を望んでいたのか分析してみましょう。そして、そういったことを言語化してみましょう。言葉はあいまいなものに形を与え、はっきりと「意識化」させる力があります。書くなり、呟くなりして、感じたことをできるだけ言葉にしてみましょう。




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