ホーム回復のための方法論


過去を振り返る 2

家族を振り返る 
 Ver 1.0 1999/07/13

 家族とは、自分という人間が発生した源であると同時に、境界例にとっては問題の巣窟でもあります。この家族の構成員の一人一人に焦点を当てて、過去の問題点を洗い出してゆきましょう。

 境界例にとって重要なことは、分離不安に関係する出来事です。親から精神的に分離して、親とは別の独立した存在として行動しようとしたとき、何か事件に出くわさなかったでしょうか。親から足を引っ張られたり、親に依存するようにと、脅されたり強制されたりしたことはなかったでしょうか。あるいは、無視、無理解、虐待、などがなかったでしょうか。親の世間体のために自分という存在が利用されていなかったでしょうか。おそらくたくさんの出来事があったことでしょう。そういった出来事を、家族の構成員ごとに、一つ一つリストアップしてみましょう。表にして書き出してみるのもいいでしょう。そして、機会を見ては、それらの出来事を詳細に再現してみましょう。その時感じたことをできるだけ言葉にして表現してみましょう。

 この言語化という過程は重要な意味を持っています。心の闇に潜んでいる、怪しげな感情を表現するときに、どの言葉を使ったらその時の自分の気持ちに一番ぴったりした表現になるだろうかということで、そこに言葉を選ぶというプロセスが入ります。これが、すなわち自分の感情を分析することになるわけです。そして、言葉を選んでゆく過程で、今まで思っていもいなかったような言葉が突然浮かんできて、自分でもびっくりすることが必ずあります。これは自分という"迷宮"に対する、ひとつの発見です。今まで気づかなかった自分の隠れた感情、隠れた願望に気づきます。もし、みなさんが、過去を詳細に振り返り、いろいろな出来事やその時の感情を言語化しようとすれば、ほぼ間違いなく、このような発見に出くわすことでしょう。あるいは、もうすでにこのような体験をしている人も多いかもしれません。これが言葉の持っている力なのです。ですから、可能な限り言葉にして表現してみましょう。

 しかし、過去は、人によって千差万別です。忘れていた辛い出来事を、突然思い出すこともあるでしょう。言葉で表現することなどできないような、凄まじい感情の嵐に襲われることもあるでしょう。激しい恐怖感からパニックになることもあるでしょう。こんなときは、一歩後退してみましょう。前進することだけが人生ではありません。後戻りしてもいいのです。安全なところまで、二歩でも、三歩でも後戻りしてみましょう。そして、気持ちが落ち着いたら、ほんの少しでもいいですから、進める範囲内で進んでみましょう。先は長いのです、気長に行きましょう。感情の嵐に襲われたとしても、「嵐の中でも時は経つ」のです。

 依存型の人にとっては、問題点を見つけ出すのが難しいかもしれません。今までずっと、親の言うことを聞く良い子でいたのですから、親の教えと自分の考えの区別がつかなくなってたりします。親の考えや教えをそのまま受け入れていて、自分の考えを持っていないのですが、自分の考えを持っていないこと自体にも気づいていなかったりします。しかし、この文章を読んでいる人は、少なくとも、なんらかの問題意識を抱くようになった人でしょう。親の言いなりになって、反抗期を持つことなく成長してきたのですが、遅くなってもかまいませんので、今からでも反抗期を体験してみましょう。親のから刷り込まれた、見えざる呪縛を発見するために、自己分析をするときは、わざと反抗的になってみましょう。わざと生意気になってみましょう。過去の親の教えや、親の態度をひとつずつ思い出して検証してみましょう。そして、少し生意気な視点から批判してみましょう。人間は本来なんでもありなのです。生意気になるには不安を感じるかもしれませんが、やってはいけないことなどないのです。少しずつやってみましょう。そして、親に対する不満を見つけたら、親を責めてみましょう。分離不安が強力に刷り込まれているので、親を攻撃するのは恐怖感を感じるかもしれませんが、できる範囲内でやってみましょう。たしかに、すべて親の責任にすることはできず、最終的には自分の人生は自分で責任を持たなければならないのですが、それは後で考えましょう。最初から分別くさくなって、自分を抑圧してはいけません。それも刷り込みから来ているのです。今は、自分の心に眠っている隠れた怒りを発見することを考えましょう。――とは言っても、これはあくまでも自己分析でのことです。現実の親に対して攻撃的になるかどうかは別の話です。自分の責任で判断しましょう。しかし、親に自分の気持ちをぶつけずにはいられなくなるでしょう。その時、親がどう出てくるかは、人それぞれです。私が挑発的なことを書いたからと言っても、どう行動するかは自分の責任で判断してください。ここが自己分析の難しいところです。場合によっては精神的にボロボロになるかもしれませんが、そういう危険を避けていては、いつまでたっても分析は進みません。しかし、もし、ボロボロになったとしても、誰もフォローしてくれる人がいない……。この兼ね合いをどう判断したらいいのか。私にもわかりません。どこまでリスクを冒すかは、各自が自分の責任で判断してもらうしかありません。他の所にも書きましたように、私は結果には責任を持てません。(^^ゞ

 依存型の人と違い、攻撃型の人は、今まで親とのさまざまなトラブルを経験してきていることでしょう。親の呪縛から逃れようとして暴れてきたことでしょう。しかし、いくら暴れてみても、親の刷り込みから逃れることができません。いくら包丁を振り回して暴れても、その包丁で呪縛を断ち切ることができません。このような攻撃型の人の過去は、ひどい出来事で一杯か、あるいは一見平和な家庭だったかのどちらかでしょう。しかし、どんなに暴れても、過去を書き換えることはできません。どんなに許し難い出来事があったにしても、最終的には、実際にあった事実として受け入れていかなければなりません。どんなに親に償いを求めても、最終的には自分の人生は自分で生きなければなりません。誰も代わりに生きてくれることはできません。そういうことは、理屈としてはわかっていても、なかなかその通りにできるものではありません。これが簡単にできるようなら、誰も境界例になったりはしないでしょう。しかし、少しでも問題を解決するために、過去から現在までの自分を、家族との関係という点から振り返ってみましょう。親の何が憎かったのか、自分が何を求めて暴れたのか、そういったことを洗い出してみましょう。すぐには答えは出ませんので、取り敢えずいろんな出来事をリストアップしておきましょう。あの日、親を殴った時の事、あの日、親を殺そうと思って包丁を握りしめた時の事、あの日、絶望してボロボロになった時の事、あの日、死にたくなって手首を切ったときの事、そういった出来事をリストアップしておきましょう。幼いころにまでさかのぼれば、精神的に虐待されたり、親のエゴのために利用されたりしたことがたくさんあるでしょう。そういったことを取り合えず並べてみることです。そして、精神的に余裕のあるときに、詳細に振り返ってみてください。今、精神的に落ち込んでいたり、ボロボロの状態なときは、過去を回想すると、ますますひどくなりますので、やめましょう。自己分析にはある程度の気力と体力が必要です。状態が良くなってからやってください。重症の人の場合は、治療を受けて、状態が改善してからにしてください。

 過去を振り返る作業を通じて、自分の精神的な自立と、それに伴う分離不安に焦点を当ててみましょう。根の深い問題は防衛機制が働きますので、精神分析の技法を使わないと解決の糸口が見いだせないでしょうが、過去を振り返ることだけでも、ある種の直面化がなされることになりますので、各自の問題点の程度や、各自の洞察の能力によっては、いくつかの点で解決を見ることでしょう。回復のための方法論に書いてある、各種の防衛機制のパターンなどを参考にして、過去を振り返ってみると、意外な発見があるかもしれません。いずれにしても、非常に時間のかかる作業ではありますが、前進と後退を繰り返しながら、少しずつ気長にやっていくしかありません。

追記
 書き忘れましたが、親との関係の他に、きょうだいとの関係も意外と重要な意味を持っていたりします。愛情の奪い合いから来る敗北感などが潜んでいることがあります。



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