別記第1 の全文
精神障害者通院医療診査指針
第一 対象となる精神障害およびその状態像
法第三十二条に基づく通院医療の対象となる精神障害は、精神病、精神薄弱、精神病質であって、神経症のうちでも、心因精神病もしくは精神病質のうちに属せしめらるものは、通院医療の対象となる。精神科領域の治療は一般に、内因性精神病をはじめとして、疾病別にではなく、状態像によって治療法がきめられる場合が多いので以下各状態像について述べることとする。なお、症状が殆んど消失している患者であっても、軽快状態を維持し、再発を予防するためにはなお通院治療を続ける必要がある場合もあるので、このような場合には治療を中止したときに予想しうる状態像を十分考慮すべきである。
1 緊張病症状群
興奮や昏迷で代表される精神運動障害をいう。主として緊張型分裂病にみられるが、いろいろな脳器質性疾患にもみられることがあるし、心因精神病や症状精神病にも類似の状態が起こることがある。激しい緊張病性興奮や深い緊張病性昏迷状態の場合には、入院医療の対象となるが、その程度が軽ければ通院医療も可能である。よくみられる症状は、硬い表情、ぎこちない動作、不自然な姿態、しかめ顔、尖り口、ひねくれ、衒奇、途絶、常同症、拒絶症などである。また、軽症とみえるものでもときに刺激性亢進、衝動的暴行のみられる場合もあるので、通院医療が必要である。
2 幻覚妄想状態
幻覚、妄想を主症状とする状態像をいう。
妄想型分裂病を中心とする多くの精神分裂病、脳炎後遺症、進行麻痺、脳動脈硬化性精神病などの脳器質性疾患、覚醒剤、アルコールなどの薬物の慢性中毒、症状精神病、心因精神病などにみられる。
幻覚、妄想が激しく、これに支配されたり、あるいは不安が強いために異常行動のみられる場合には入院医療の対象となることが多い。とくに、その内容が、被害、関係、嫉妬、誇大、血統、好訴などの内容をもつときは、社会的脱線行為に結びつくので、入院を要する。
しかし、幻覚、妄想はあっても、ある程度の病識あるいは病感をもっていたり、自分から医師を頼ってくる場合とか、妄想内容が直接自他に対して危害を与えないようなものの場合には、通院医療が可能である。
3 情意鈍麻
感情面における疎通性の減退、意欲面における自発性減退を中心とする状態像をいう。破瓜型分裂病はもちろん、あらゆる精神分裂病の欠陥状態にみられるものである。
患者は無気力で姿態はだらしなく弛緩し、多くは無為となる。接触は悪く、自閉的、孤独あるいは浅薄、表面的となる。陳旧例では精神内界の空虚なるものが多くなるが、幻覚、妄想を抱いているもの、思路障害の目立つものなどが少なくない。患者は独語、空笑を洩らしたり、談話がまとまらなくなったりする。この種のケースの治療の目標は自発性、疎通性を高めることにおかれるが、放っておくと一見穏やかにみえる患者でも自己中心的で協調性がなく他人の干渉を嫌うものか多く、普通の生活を強制されただけで怒り易くなったりする。こういった面に対する治療も必要なわけである。
4 躁うつ状態
感情の昴揚および抑うつを主とする状態像をいう。
躁うつ病、初老期うつ病のほか、分裂病、老年精神病、脳動脈硬化性精神病、進行麻痺、てんかん不気嫌状態、心因精神病、症状精神病などにもよくみられる。
躁状態が激しければ、ごう慢、不そんな態度、無遠慮無思慮な干渉、観念奔逸、誇大妄想などのため、暴行、濫費、脅迫、性的脱線など他人に対して危害を及ぼすことがある。うつ状態が激しければ、不安苦悶、厭世観、罪業、貧困、心気妄想などのために自殺、自傷のおそれがあり、入院医療が必要となる。しかし、その程度が軽くて、自分から治療を望むような場合は、通院医療の対象となろう。また、軽快し一見正常に戻っても、症状が不安定なので、治療を続ける必要がある。
5 痙れんおよび意識障害
痙れん発作、意識障害発作、あるいは多少持続する意識障害などもふくむ。ただし、持続的な意識障害が通院医療の対象となることはあまりない。痙れん、意識障害発作を起す疾患は、てんかんの他、頭部外傷後遺症、脳炎、髄膜炎後遺症、諸種薬物中毒、進行麻痺、ナルコレプシー、心因精神病、症状精神病など非常に多い。
これらの疾患の発作症状は、服薬により軽快しても、中止すれば殆んど再発するので長期間の通院医療が必要である。また、発作症状の他に次の6および7で述べるような症状を伴うものが多いので、発作症状に対する抗てんかん剤の他にも、特殊な薬物療法を必要とすることが多い。
6 知能障害及び器質的欠陥状態
精神薄弱および成人後の諸種脳障害による痴呆の状態をさす。痴呆をきたすものとしては、殆んどすべての脳器質性疾患が考えられる。
精神薄弱は、ただその知能障害だけで通院医療の対象となることはまずない。しかし、あらゆる精神身体面の発育障害のため、人格に異常をきたしており、けんか、暴行をしたり、窃盗などの反社会的行為をするものも少なくない、これらのなかには通院医療の対象となるものもある。
痴呆の場合にも、知能障害とともに、情意の減退、情動失禁、感情の不安定など、いろいろな精神症状がみられるので、通院医療が必要である。これらの疾患のなかには進行麻痺、老年痴呆、脳動脈硬化性精神病、頭部外傷後遺症、慢性アルコール中毒などのように、同時に身体的治療を必要とするものも多い。また、てんかん、脳炎後遺症などでは、7で述べる人格変化が強いので、それに対する治療も欠くことができない。
7 人格の病的状態
すべての病的人格をいう。すなわち、精神病質の他脳炎後遺症、頭部外傷後遺症などの脳器質性疾患およびてんかんなどで、人格変化の顕著なものもこれにふくまれる。
例えば、意志欠如者、抑うつ者、自信欠乏者、無力者などで、単なる環境調整などでは社会適応の困難な者は、通院医療の対象となることがあろう。これらの精神病質者は、また、8の嗜癖、中毒と結びつくことが多いので、その治療も必要となる。
脳器質性疾患では、2、5および6の状態像の合併することも少なくないので、入院治療を要するものが多いが、軽快退院後も憎悪を防ぐために長期にわたる通院医療が必要である。
8 嗜癖および中毒
麻薬、アルコール、眠剤、覚醒剤など、持続的濫用から嗜癖におちいり、その結果、慢性の中毒症状を呈するようになったものをさす。
麻薬、覚醒剤のように法律で取締られている薬物の嗜癖、中毒では入院医療が絶対に必要となる。アルコールでも振戦せん妄、アルコール幻覚症、コルサコフ病などのアルコール精神病では入院を避けられないし、眠剤中毒でも禁断時にせん妄や痙れんの起ることがあるので、入院を要することが多い。
いずれの薬物の嗜癖、中毒の場合でも、軽快退院した後に再び嗜癖におちいる危険が非常に大きいのでかなり長期間の通院医療が必要である。
第二 治療方針
1 法第三十二条による通院医療(精神障害に附随する傷病を除く)の治療方針は、社会保険による精神科治療指針(昭和三十六年十月二十九日保発第七三号)によることとする。
2 薬物療法にあたっては、嗜癖におちいらせたりすることのないよう充分に注意すべきである。また、副作用の防止のため、六か月に一回以上必要な検査を行なうことが望ましい。必要な検査とは、抗てんかん剤以外の薬物療法の際には
┌検 尿
└次の検査のうちから二種以上の検査
モイレングラハト、トランスアミナーゼ(SGOT、SGPT)、BSP、OCH、TTT、ZST、アルカリフォスファターゼ
抗てんかん剤使用の際には、血球数算定を必要とする。
なお、検査は進行麻痺における梅毒反応検査(血液および随液)、てんかん性疾患における脳波検査などのほか治療上直接必要な検査を行なうことができる。