ホーム回復のための方法論


原光景 2

私の原光景 1 
 Ver 1.0 1999/07/29


 私が最初に描いた、自分の精神状態を表わすのにぴったりと来る情景とは、次のようなものでした。

 月明かりが照らし出す、深夜の平原。そこを走る一本の国道を私は歩いていた。私以外は誰もいない無人の世界だった。静かで、物音ひとつしない世界だった。ただ青白い月の光だけが、地上を照らしていた。私はロープで重い死体を引きずりながら歩いていた。その死体は黒ずんで、腐っていた。腐敗した死体からは、透明できれいな体液が漏れていた。私は歩きながら、だんだん疲れていった。死体があまりにも重いので、私の生気が、死体によって徐々に奪われていくような感じだった。私は少しずつ心がひからびて来るのだが、それでも、アスファルトで舗装された深夜の国道を、死体を引きずりながら、ただひたすら歩き続けて行く……。

 いま、こうして過去に抱いていた情景を、ふたたび文章にしてみると、なんとなく懐かしい気持ちになります。あのころの私の精神状態がよく反映されているなあと、あらためて思います。

 この情景は、別に夢に見たわけでも何でもないのですが、自分とはなにかという自問自答を繰り返しているうちに、少しずつ形成されていったものです。孤独地獄とでも言いましょうか、精神的に孤立していて、感情がひからびてゆくような、すこし分裂病的な色彩を持った情景です。あのころは、自分というものがありませんでした。自分が無いということにさえ気付いていませんでした。わけも分からずに暗黒の嵐の中をさまよい続けているような状態でした。しかし、今はずいぶんと精神状態も良くなっているので、かつて抱いていた情景をいくらか分析することが出来ます。

 私の引きずっていた死体とは、おそらく父の意味だったのでしょう。父に対する殺意を意味する夢は、その後たびたび出現しています。しかし、この情景を描いたころはまだそういう認識もなかったのですが、情景の中にはちゃんと描かれていたことになります。父親への、自分では扱いかねるほどの凄まじい憎しみが、自分にとってあまりにも負担になっていたのだと思います。その激しすぎる憎しみが自分自身を蝕んでゆくのです。青白い月の光に照らされた死の世界を、私はあまりにも重い「憎しみ」を引きずりながら、とぼとぼと歩き続けていたのです。

 そういえば、あのころは、人からブラックホールと呼ばれたり、幽霊のようだと言われたりしたこともありました。「なんで自殺しないの」などと、すごいことを言う人もいましたが、今はもう過去の出来事になってしまいました。



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