Dr. Patricia Love
Publisher : Bantam Books
1991/02　ISBN: 055335275X　$15.95
　
　心理的な近親姦というのは、具体的な性行為はまったくないのですが、親が自分の心の空白を埋めるために、子供を「代理の配偶者」、あるいは「配偶者の代用品」として心理的に利用する関係の事をいいます。親子ともに、自分ではあまり意識することがないままに、このような心理的な近親姦状態に陥ってしまうのです。
　この本では、親が自分の子供を配偶者の代用品として扱うときの、その心理操作の詳細と、その操作がもたらす深刻な影響について書かれています。子供への影響としては、たとえば罪悪感や慢性的な不安感、自己の誇大感、拒絶される事へのおそれ、人間関係の不安定さ、社会的な孤立、劣等感、完璧主義、あいまいなセルフイメージ、あいまいな自他の境界、心理的な親離れの問題などがあげられています。
　たくさんの具体的な例を挙げながら、近親姦的な心理操作のトリックが、わかりやすく解説されているのですが、これはまさに境界例的な心性が作られていくプロセスでもあるのです。私も読んでいて、ハッとさせられる事がいくつかありました。
　この本は、べつに精神分析的な視点から書かれたものではありませんが、フロイトのエディプス・コンプレックスの理論を、このような心理操作のトリックがもたらす影響というという視点から見直してみると面白いのではないかと思いました。
　後半の回復に関するページは、どうも内容的に物足りないような気がしたので、読みませんでした。

Kenneth M. Adams
Publisher : Health Communications
1991/04　ISBN: 1558741313　$7.95
　
　この本も、親が子供を心理的な「配偶者の代用品」として扱うことによって生じる問題を書いています。
　母親が息子を、心理的に夫の代用品のように扱ったり、父親が自分の娘を、妻の代理のように扱ったりすることによる、心理的な罠。その罠にかけられてしまった子供たちの精神的な苦しみについて、具体的な例を挙げながらわかりやすく解説しています。しかし、どうも著者の分析は、少し底が浅いようでして、「恥」だとか「怒り」だとかいう言葉だけで説明しようとしている点が物足りなく感じました。しかし、事例に登場する人たちが、親が仕掛けた心理的な罠に気付いていくプロセスは参考になります。